はたらく役者さん第二回目:善長 まりもさん【長谷川まる】前編

こんにちは、セツコの豪遊に所属している長谷川まるです。

お芝居とそれ以外のお仕事を両立しながら輝いている役者さんを追う「はたらく役者さん」シリーズ、第2回目です。有難いことにこの企画を初めてから様々な社会人役者の方を知る機会が増え、私自身も日々鼓舞されています。

今回お話を伺うのは善長まりもさんメーカーで営業の仕事をする傍ら、学生の頃からやっていたお芝居を、昨年再開されました。

先日下北沢のOFF OFFシアターでやられていたコンプソンズさんの「ぶっ飛ぶ夢をしばらく見ない」で拝見し、その強い存在感に惹かれお話を聞いてみたいと思い、インタビューを決定した今回。

就活の期間に抱えられていた悩みや、就職をしてから演劇に携わったことで見えてきた世界のお話は大変共感するところが多く、大変勉強になります。今現在、同じような立場で悩んでいる方々も必見の内容です。

それではどうぞ!!

社会人役者プロフィール

 

 

名前 善長 まりも
役者以外の職業 メーカー職営業職(総合職)
雇用形態 正社員
勤務時間 9:00-17:30
残業時間 ほとんどなし
勤続年数 2年
役者活動について会社には 積極的にではないが言っている
主な出演作  2015年7月 駄目なダーウィン舎@シアター711
2017年3月 栗☆兎ズ(※現在はウンゲツィーファ)「蛇の足がき」@新宿眼科画廊
2018年8月 ウンゲツィーファ「自ら慰めて」@RAFT
2019年1月 コンプソンズ「ぶっ飛ぶ夢をしばらく見ない」@OFF OFFシアター
次回出演作 3月7日~11日 小田尚稔の演劇「是でいいのだ」 “Es ist gut” (詳細は文末
をご覧ください)

社会人になって再びお芝居を始めるまで

―まずは先日のコンプソンズさんの舞台、めちゃめちゃよかったです!!現在、入社2年目とのことですが、意外にも舞台を再開されたのは、最近なのですね。

善長さん
そうですね。今は部署が変わったのですが、一年目のときはすごく体育系の部署にいて、演劇をやる余裕なかったです。数百人いる中に一人だけ女…という感じの配属で、会社の体制的に残業はなかったものの、ほぼ毎日部内の飲み会がありました。

―うわぁ本当にすごく体育系なところにいらしたのですね…。そのときも営業ですか。

善長さん
ゴリゴリの営業でした。海外が好きで学生時代はバックパックとかもやっていたのですが、その経験を面接で話したらものすごい根性と体力があると思われてしまって…。色々勘違いされてしまい、結構男社会なところに配属されてしまいました。

―参加必須の飲み会とかあるくらいなら、まだお金が発生する分、残業の方がマシですよね…。

善長さん
そうですね、後は仕事中の移動も車だったり、遠い実家からの通勤だったり…世の中もっと大変な人もたくさんいるとは思うんですけど、当時は色々な要因が重なって、結構疲れていました。そんな中演劇をやろう、っていう余裕もなかったですね。

―そういうときって他のことをしたいっていう余裕もないですよね。聞いていると本当にすぐに部署が変わってよかったなと思います。

善長さん
でも結構大幅な異動だったので、仕事も一から覚えなおしで…。新部署の方々もみんな良い方で、すごく気を遣って下さっていたんですけど、当時はそのことがすごくプレッシャーになってしまっていました。今でこそ良い環境で仕事させてもらえて有難いなぁと思えますが、むしろ変わった直後の方が辛かったですね。

―そうだったのですね。いやぁ、よく辞めなかったですね。

善長さん
辞める元気がなかったです。今の会社を辞めて転職先を探して…みたいなことをするエネルギーもなかったです。当時は辞めたら負けだとも思っていましたし。

―そこから現在まで同じところにいらっしゃるんですよね。やはり、労働環境等は結構変わられましたか。

善長さん
そうですね、今の部署の方は皆さんやることをやっていればプライベートに重きを置いていても問題ないという考え方です。仕事をきちんとこなしていれば休みも取りやすいです。

―飲み会とかも減りましたか?

善長さん
それも本当に減りましたね。勿論交流会とかはありますが、そういうのは周到な用意の上で開催されるもので、突然何の予定もなく開催みたいなことは今の部署ではないです。

―本当に全く違う会社みたいですね。演劇をやっているってことは会社には言っていますか?

善長さん
積極的には言っていないです。別に隠しているわけではないですし、上司も「善長のプライベートは善長のプライベートだから」と言って下さってはいるのですが、何かあったときに「あ、今日演劇で疲れているんだな」とか思われるのがすごく嫌で…。今の環境で演劇をやっていることを必要以上にアピールすることがプラスになるとは思えないので、聞かれたら答えるといった感じです。

―確かに色々なことを演劇のせいにされてしまうのはちょっと辛いですよね。会社が想定している「プライベート」って、多くの場合家庭のこととかである気がしますし…。

善長さん
それはそうですね、部署内の人もほとんどみんな家庭を持っているので、家庭を持っている方基準にはなっているは思います。でも、今の上司は本当に素晴らしい方で私が飲み会とかでお酒を飲まない日があると、明日は稽古なの?とかってぼそっと言ってきてくれたりします。

―素敵な上司ですね。ということは、善長さんからは積極的に言っていないものの、社内の方も受け入れては下さっているんですね。

善長さん
そうですね、会社の人とカラオケとか行ったときも「善長は演劇やっていて声がいいから」
みたいな感じで、よくいじられます(笑)だから、あまりアピールはしていないのですが、善長は外で演劇をやっているらしいということは、何となく皆さん知っていると思いますし、仕事をきちんとやり続けていればこの先もそのことを受け入れて下さると思います。

―やはり前の部署では一切言えなかったですか?

善長さん
言えなかったです。元々「会社は自分の個性をアピールする場ではない」と思っていたということもあるのですが、前の部署の時は「善長の演劇は、学生時代に頑張ったことなんだよね」ということを何度か言われて、自分のプライベートな面について話すことはためらっていました。でも部署に変わってからは、相手に自分の気持ちを話すように促してくれる人が多くなったので、演劇とかやっていることも言っていいかなと思えるようになりました。そこから「今もやってるの?」みたいなことを聞かれたときは、正直に答えています。

―環境が変わって理解が得られたのはよかったですよね。でも、これからもずっとやり続けたいような好きなものに対して「それって過去頑張っていたものだよね」みたいな言われ方をされると結構辛いですね。それでは1年目のときは役者さんとしての活動は全くしていなかった感じですか?

善長さん
いえ、実は一回だけありました。精神的にも肉体的にも仕事にプライベート面が圧迫されていって、どんどん自分の時間が無くなっていってしまっていたときに、本能的に「何かお芝居をやらないとやばい」って思ったんです。そんなときに笹口騒音ハーモニカ「プロポーズ」という曲のPVに一日だけ休んで出演しました。よく出演していたウンゲツィーファという劇団の本橋龍さんが監督をしていて、元々映画サークルにも所属していて、映像に慣れていた私ともう一人の男性にお声がかかって撮ることになったんです。

―あの映像は、そんなお辛い期間のものだったのですね…。

善長さん
そうなんですよ、結構大変なときに撮っていました(笑)でも、その映像への参加を通して、お芝居は自分にとってすごく大切で、自分で思っている以上に好きなものだったんだということに気付くことが出来ました。元々演劇は社会人になったらできないしやらないと思っていたのですが、そこからまたやりたいと思うようになりましたね。

―そのときそれに気づけたのは大きなターニングポイントだったかもしれないですね…。その作品がきっかけでまたお芝居を再開することになったんですか?

善長さん
その後部署が変わってしばらく経った頃に、前述のウンゲツィーファで、私が昔出演していた作品の再演をすることが決まって、そのとき初演の役はまた善長さんにやってほしいと言って頂いたんです。ちょうどこのタイミングで引っ越しもして、演劇と仕事の両立もしやすくなりました。

―そして、現在はお仕事と役者活動の両方を実現されているのですね!今は稽古の時間とかってどのように確保していますか?
善長さん
それは本当に周りの方のご協力もあって…という感じです。会社の方に関して言うと公演のときだけお休みを頂いて、基本的には定時まで仕事をしているのですが、結構演劇の方にはご迷惑をおかけしていると思います。この前の公演期間も、仕事を終えてから稽古に遅れて参加していたので…。

―集中稽古のときとかはどう対応していましたか。

善長さん
普段は本番前に長い時間会場に入って稽古をする団体に出ていないかもしれないです。この前出演したコンプソンズの舞台は、割と一般的な演劇の団体と同じようなシステムを取っていたので、ご理解頂いて稽古に参加させてもらっていましたが、ウンゲツィーファはシフト制だったり、今度出演する舞台もみんなが集まれるときに稽古を行うという感じです。現場にほかの作品と掛け持ちしている方や、私の他にも昼間に仕事をしている方も多いので、有難いことに私の参加の仕方も許して下さっています。

―お芝居とお仕事を上手に両立していらっしゃいますね。ここから年間何本出たい…みたいな目標はありますか?

”なまえ善長さん
それは今のところないですね。やっぱり皆さんに迷惑かけてしまうような気はしてしまっています。

例えば会社員の方が主軸になっている団体さんだったら、稽古のペースも合うとは思うですけど、全く知らない団体に今の立場で飛び込むのは、今の私は少し勇気がいります。相手の方が相当面白がってくれているみたいなのがないとちょっと難しいのかなと…思ってしまっていますね。後は、ご縁があったり、自分が好きだと思った団体に出たいっていうのもあります。

でもずっと知り合いの劇団だけ出ているという体制なのも甘えだな、とは思っているので、ここからは出来る限り活動の幅は広げていきたいところです。

以前取材した長谷川さんはオーディションの際に自分が会社員をやりながら役者をやっているという旨を伝えていたとおっしゃっていました。もし知り合い以外の団体ですごく出たい団体がもし現れたら、意外と参加方法はあるかもしれないですね…!!

お芝居にも仕事として関われるようになった現在

―そういえば一つ気になっていたのですが、宣伝活動とかってどのようにしていますか。拝見していると、積極的に呼びかけている印象があまりなくて、それでもあんなに素敵な舞台に出演しているのが素晴らしいなあと思っていたんですけど、何か集客に関してしていることってありますか?

善長さん
私の場合、そこまでチケットノルマとかが激しく課されている団体に出たことないというのが大きいかもしれないです。

そもそも小劇場において役者さん目当てで来るって人は相当コアなファンの方くらいなんじゃないかなと思うんです。普通はその劇団を見に来るんじゃないかなぁ。だから、そこは劇団さんの集客力を信用して、私は確実に「私を見たい」と言ってくれた人や、出演する作品を好きになってくれそうな方にだけ、フライヤー画像をお送りする感じです。

もちろん役者をやっている以上、私を見たい人が一人もいないのはまずいと思うんですけど、より多くの人に「善長を見たい」と思ってもらう為には、「絶対にこの芝居を好きじゃないだろう…」みたいな人にも手当たり次第チケットを売るよりは、その場にいるお客さんの為に、いいパフォーマンスをしたり、お芝居の精度を上げる方に注力していった方が、長い目で見ても良いと思うんですよね。

私を見て面白いと思ってくれた方がもしいたら、それこそSNSとかでそれを書いて下さると思うので、その方が宣伝効果になると思います。

―なるほど…見たいと思ってくれている方に確実に届けるって一番いい方法かもしれないですね…!

善長さん
もちろん、出ている舞台の宣伝を積極的にするのは良いと思うんですけど、例えばそこまで付き合いのない、自分の舞台もそこまで見に来てくれたわけではない人から突然くる長文の舞台宣伝とかって、客観的に見てみるとすごく不自然で気持ち悪いものだと思うんです。

もし演劇に慣れていない人が見たら、怖いとさえ感じられると思います。音楽とか映画とか、他のジャンルで活動している人を見ても、あんなに過剰な宣伝活動をしている人っていないです。でもお芝居の世界の人たちの中では、何となくそれがまかり通っている。

―あぁ、確かに演劇独特の宣伝文化ってあるかもしれないですね…。私はお知らせがほしいと思っている方なのですが、考えてみたら何の説明なしに今まで疎遠だった人からお芝居の宣伝だけ届いたら、ちょっと嫌に感じる人がいて当然かも。私も、お客さんにいいものをお届けするという意識が一番大切なのも分かっているつもりなのに、どうしてもより多くの人に見てもらうことばかりに気を取られてしまうことがあるので、これは反省です。

善長さん
でも、私もこういう感覚が身についたのって社会人になってからかもしれません。演劇以外の世界に長くいる機会があったからこそ、演劇をやっていない人たちの立場についても、より考えるようになりました。その場来てくれたお客さんに一番いいものを…という意識も社会人になってから強くなりましたね。

好きで追及しているものも、お客さんとの間にお金が発生している以上、仕事です。それは学生の頃から分かっていたつもりでしたが、やっぱり働くようになって、しっかりとその感覚が身についた気がします。観劇一回分のお金で、ちょっといいランチが食べられますからね。だから「お金が発生しているこの空間で出来得る最高のパフォーマンスをしよう」って思えるようになって、その意識は演劇を続けていくモチベーションを確実に上げてくれています。

※後半に続きます。後半では演劇に打ち込んでいた学生時代のお話、そこから就活を決意をした経緯、会社員役者という立場になって分かった色々なことついて、お話を伺っています!!

善長まりもさんの次回出演作

小田尚稔の演劇「是でいいのだ」 “Es ist gut”
■日程:2019年3月7日(木)〜11日(月)
■場所:SCOOL(中央線・総武線の三鷹駅南口より3分)

ご予約(劇団扱い)
https://481engine.com/rsrv/pc_webform

『是でいいのだ』公演詳細ページ
http://scool.jp/event/20190307/

聞き手:長谷川まる

東京都出身。セツコの豪遊(@setsuko_no_goyu)所属。会社員も役者もやっている。