しばいのまち宛に「自主制作映画を撮ったのでとりあげてほしい」という旨の連絡が届きました。
下記は頂いたメールの一部抜粋です。
作中では、「小劇場にありがち」な劇団内の金銭事情、モチベーション格差、恋愛のもつれ、仕事との両立や人生設計など、リアルな問題に直面する演劇人たちが公演を作り上げていく様子が、彼らの公演内容である劇中劇と並行して描かれていきます。
それでも劇中で描かれる問題のいくつかは、私たちにとっても決して他人事ではありません。
小劇場や自主映画のような「お金にならない表現活動」を笑うのではなく、その現実と、私たち自身も一緒に戦っています。
「何者でもない作り手」が自分たちと向き合い、生み出した作品。
演劇人に限らず、人生の岐路、夢の途中でもがく人たちの心に、刺さる作品になっています。
ぜひ、取り上げて頂けましたら幸いです。
しばいのまちは「お芝居を続けること」を応援したいと思って運営しています。
本作品は30歳を目前に控えて、三年ぶりに本公演を行う小劇団の現実的な裏側を描いたお話です。
小劇場や自主映画のような「お金になりづらい表現活動」を行うこと、続けることについて、社会人になってもお芝居を続ける読者の皆様に、参考になるものがあるのではないかと思い、監督をした堤真矢さんにお話を伺いました。
聞き手:山本祐介(やまもとゆうすけ)
監督と作品について
堤真矢(つつみ まさや)
1986年生まれ。インディーズ映画監督・脚本家。
2005年、九州大学芸術工学部画像設計学科に入学し、4年間の在学期間中より多くの長編・短編映画を制作。その後、武蔵野美術大学大学院造形研究科デザイン専攻映像コースに在籍。修了後は東京を拠点に、フリーランスで映像制作を行う傍ら「Tick Tack Movie」名義で自主制作を続けている。
ジャンルや時間軸を飛び越える複雑な構成と、繊細かつ明快なドラマを融合させた作風で、インディーズでもメジャーでもない映画の面白さを模索中。
Twitter:@ticktackmovie
パラレルワールド・シアター
売れない小劇団のアラサー団員たちが直面する夢と現実を、劇団が上演する劇中劇の内容と交錯させながら描いた人間ドラマ。
公式サイト
予告編動画
制作のきっかけとその想い
ー今日はお時間どうもありがとうございます。堤さんは映画を撮っているとき以外はどんなことをされてるんですか?

焦燥感と挫折を作品にしたかった
ーどういった経緯で今回の映画は制作しようと思ったんですか?

ただ「スマホ仮面のヒト」として認識してもらえるのは嬉しい反面、そのイメージを引きずりすぎたくもなくて、早めに「もっと自分らしい作品」で勝負したいなとは思っていました。
でも結局その後数年間特に大きなステップも踏めず、停滞してしまった自分がいて。
そこで感じた、このまま自分自身の20代が終ってしまうという焦燥感と挫折を、作品に残したいと強く思ったのがキッカケのひとつだと思います。
「演劇」を題材にした理由
ーなぜ今回は劇団を取り上げた作品にしたんですか?堤さんももともと演劇をされていたとか?

自分が感じた焦燥感や挫折を撮ろうと思った時、「映画」を題材にするとそのままの自分の投影になりすぎて、距離感が取りづらくなると考えました。一方で「演劇」ならば周りに知人も多く全く知らない世界ではないし、程よい距離感で表現したいことが表現できるのでは、と考えたのはありました。
ーそうだったんですね
表現者としての焦りとあきらめから見えたもの


仕事も頑張らないといけない、作品も作りたい、プロを目指さなきゃカッコがつかないと、なりたい自分を全部叶えようとしていたのですが、それゆえに苦しかった。30歳を迎えて、逆にふんぎりがついたというか。開き直る様になりました。
そんなに全てが出来るほど器用で無いなら、全部は無理だとあきらめて一旦「つくりたい映画をつくることだけを選んでみよう」と考えるようになりました。そこから仕事を減らすようにして、準備を始めて、制作を進めていきました。今回もクラウドファンディングを行い、結果として「Motion Gallery」にて、128万5000円もの制作費支援を集めることに成功しました。
最初は映画のために色々と犠牲にしたつもりだったのですが、周りの方々の理解もあって、結果的に、仕事とやりたいことのバランスも、今が一番取れているなと感じています。
ー捨てることや開き直ることで見えることってありますよね。

小劇場演劇に対する思い
まさに作中ではリアルというか、直視しづらいネガティブな現状も描いていますよね。堤さん自身はどういう風に小劇場やそこで活動する劇団を見ているんですか?

「大人になっても文化祭みたいなことをして、何をしているんだ」と、世の人には言われてしまうかもしれませんが、むしろ、「大人の文化祭上等だろ」くらいに思っています。
関わっている人が幸せになることが大事

自分も、必ずしも「自主制作から売れること」がゴールではなく、作品制作と仕事とのバランスがとれ、プロになる以外の形で誰も消耗せずに作り続けていく道がもしあるのなら、それでもよいと思っています。
そこにいる人達が納得しているなら、「売れてないから趣味じゃん」と馬鹿にすることなく、「趣味でいいじゃん」と肯定していたいなと思っています。

ーそれは、本当にそうですよね

でも最近、少しずつ色んなところで取り上げて頂けたり、映画情報サイトに「映画」として登録されていたり、何より観た人からの反応を頂けたりして、「そういうことじゃないな」と思えるようになってきました。誰かにとって本物に見えているならそれでいいんだと。
この作品で、小劇場描写という形を借りて、自分の中にあった「インディーズな表現者として生きること」への自虐やネガティブな批判を吐き出しきったと思っているのですが、この作品を作れたこと自体が、そこへの反論でもあってほしくて。
「作ってくれ」とも「上映しましょう」とも誰からも言われてない、何者でもない映画でも「ここまではできるんだ」という、ひとつの例を提示できたら良いなと思っています。
ーそうですね。この映画はきっと多くの人が自分の活動を考え直すきっかけになるんじゃないかと思っています。短い時間でしたが、本日はありがとうございました。
インタビューを終えて
私自身も今後作品を撮りたいなと思っているなかで、アマチュアの作品作りにおいて、作品を作り続ける目的について、「プロになる以外の形があれば」という言葉に共感を持ちました。
もちろんプロになることを夢見て創作活動をすることを否定しましませんが、我々のような社会人になって芝居や作品作りを続ける者として、プロになる以外の形や、作り続ける方法が大事というのは、非常に示唆的だと思いました。
堤監督の姿勢や活動を自身の活動にも活かして行ければと感じるインタビューでした。
上映情報
シネマハウス大塚にて1月26日〜2月9日まで上映。
上映詳細とチケットの購入は下記から
http://pwt.ticktackmovie.net/theater-ticket.html
山本祐介(やまもとゆうすけ)
1976年生まれ。東京都出身。大学卒業後会社員生活のなか社会人向けのデジタルハリウッド大学大学院に通い修士号を取得。ゼミでショートフィルムを作ったことにより映像制作にハマる。しばらくしてENBUゼミナールの映像監督コースに通う。Webコンテンツやスマホアプリ関連のベンチャーなどを渡り歩くもやはり映像関係の仕事に関わりたくなり、近々CMやWeb動画制作の会社に転職予定。ただし、仕事は経理。
twitter:@yu_suke_y
大学院の修了後には一度就職もしたのですが、作品作りと会社員を両立していくことが自分には難しく、結局フリーになって作品作りを再開しました。