こんにちはえびひよこです。
この3年間で「シェア」というキーワードが持つ意味が随分と変わったように思います。車や住居を複数人で共有するという形は、今ではとても「一般的」になりました。
人々のお金や時間に対する考え方が変化し、他者と共有することで、それまで手の届かなかったモノを手軽に手に入れることができるようになりました。ただ、演劇の世界に目を向けると「シェア」には、まだまだ色々な可能性が残されているように感じます。
特に「小劇場」のコミュニティの中で、モノやスキル、空間を共有することは、効率化はもちろん、クリエイティブな面でも可能性があるはずです。ただし、その可能性に関しては、今現在も試行錯誤の最中という印象を受けます。
そんな中、なんと3年前から稽古場を共有する「シェアスタジオ」の運営を、スタートしていたのが俳優の日下諭さんです。
【3年間シェアスタジオを続けれられた秘訣を探る】
”しばいのまち”では、3年前のオープン直前に、日下さんへインタビュー を行っています。
今回はその「追跡取材」として、乙戯社主宰の”とも”さんと日下さんの「対談」という形式をとり、3年間シェアスタジオを運営した日下さんへの取材を行いました。
実際に「シェアスタジオ」を運営してどうだったのか?
この3年間で、どんな出来事があったのか?
小劇場における「シェア」の可能性とは?
実際にスタジオ運営を行い、その効力と苦労について、身をもって体験している日下さんの言葉は、とても貴重な内容でした。
お2人の「対談」の中から、周りを巻き込み、多くの協力者を得ながらスタジオ運営を3年間続けてきた実績と、その秘訣を探っていきます。
【対談者紹介】
・日下 諭
1985年生まれ。俳優。 文学座附属演劇研究所47期。新国立劇場演劇研修所5期を経て現在はK’S倶楽部所属。高円寺K’sスタジオ代表。
note→ note.mu/satoshikusaka
※ 高円寺K’sスタジオ
会員制のプライベートスタジオ。
俳優、演出家、制作者、技術者、講師、演劇に関わる全ての人をターゲットとして、稽古場の提供、ワークショップの拠点、小規模な発表会、さらには交流会や忘年会などの飲み会を含むミーティング場所の提供を行います。コンセプトは「演劇人の出逢いと集い」。
・いちかわとも
「乙戯社」主宰。 8月31日生まれ。おとめ座。日本大学芸術学部卒業。学生時代から脚本、執筆活動を継続し、2019年2月9日(土)には第三回新宿演劇祭において、リーディング・ミュージカル「あらしのよるに」の上演を予定。
WEBサイト→http://fortunatebirds.wixsite.com/otogisya
【中嶋しゅうさんとの出会いが新館設立のきっかけ】


正直”儲かっているか儲かっていないか”で言えば、儲かっていないんですけど何とか破産もせず続けてこられたのは、皆さんに使っていただいたおかげだな、としみじみ思っています。


演劇以外にも、自主製作映画の上映企画や、最近は写真の撮影会まで行われていて、本当に色んなことに使っていただいています。それが、とても嬉しいです。


それが、スタジオを運営することで、その空間を介して、「僕に興味を持ってくれた人」が向こうから会いにスタジオへ来てくれた、というのは考えもしなかった変化で、とても驚いてます。

あっ、特に印象的だった出会いなどはありますか?

一昨年亡くなった 中島しゅうさんが、ある日突然このスタジオを訪ねてこられたんです。それで、中嶋さんが僕の前で帽子を脱いで「低予算でも上質な現代演劇を作りたいと思っているんだ。協力してくれ。」って頭を下げられて。お願いをされたんですね。断れないじゃないですか?あの、中嶋しゅうさんですよ?僕にとっては、雲の上のような人じゃないですか。




あと、「人との出会い」という事だと、このスタジオで開催される企画って、僕自身でやっている企画は実は少しで、あとは、何らかの形でスタジオに来てくれた人が、ここ良いなって思ってくれて。スタジオを使って「ここでこんなことしたい」「あんなことしたい」っていうアイデアをくれて。僕はそれに対して、割と軽い感じで「いいんじゃないですか!」って言っているので(笑)
利用者の人との雑談の中で企画が増えていって、実際に色んなことするスタジオになっていったんですよ。ただ、もっと、もっと色んなことやって良いと思ってますけどね、僕は。
【スタジオ公演をしたら常設劇場が欲しくなった】


僕は役者なので「いつでも公演ができる劇場」は絶対に欲しい、でもこれまでのような「自由な企画ができるスタジオ」もなくしたくない。そういう意味で、今後の計画として、そろそろ常設の小劇場が欲しいなって思うようになりました。
理想は、ビルが欲しいです。一階が100人弱くらいの小劇場で、2階がこんなようなスタジオ、で、3階もまたスタジオで、その上に僕がこじんまりと住むみたいな。オペラ座の怪人のように(笑)


うちのスタジオで実験的な公演をやったら、次は名古屋で同じようなことをやってるシェアスタジオで同じ公演をやる。逆に名古屋のスタジオで新しい企画をやったなら、今度はうちのスタジオで……みたいな交流ができたら楽しいなって思ってます。「シェアスタジオの全国公演」みたいなネットワークは面白そうですね。


口コミで、「こんなスタジオで、こんなことしてたから面白かったな。そしたら、こういうことできそうだな」っていう人が一人づつでも増えていったら、僕はそれがいいと思ってます。そんなに人がたくさん増えても収容量がそんなないので(笑)


【実体験に基づく小劇場での「シェア」の可能性】


普通に考えて、1年365日、1日24時間しかなくて、一人が1時間当たりに対して払えるお金っていうのは限られているわけじゃないですか。だから本当に「貸しスタジオ」として経営するなら頭打ちの上限は絶対に決まってる。そんなに旨味のあるビジネスではないと思ってます。ただ――。







その際は、是非また追跡取材をさせてください!

【まとめ】
対談の中で日下さんが何度も仰っていた、「支えていただいた皆さんのお陰でやってこれました」という発言が印象的でした。
その言葉の通り、損得で繋がった関係でなく、顔を突き合わしての損得を超えた「生身の人間同士」による繋がりからこそ、生まれる価値を非常に大事にしている、そんなスタジオなのだと感じました。
そのスタンスは、まさにリアルタイムで行う芸術である『演劇』と、多くの部分で共通する考え方です。
シェアスタジオという空間を介して、共通する考えの人々が集まり、そこから新たな価値を創造し続けている、日下さんと高円寺K’sスタジオの今後に注目していきたいです。
【Ebihiyoko】 乙戯社サポーター/夫婦WEBライター
夫婦でライターをしている二人組。二人合わせて「Ebihiyoko」です。
両名とも1988年生まれ、東京の大学の演劇サークルで、
4年間演劇漬けの日々を送っていました。
今は、夫は目黒区のIT企業、妻は生保業界で、それぞれ忙しく生活しています。
「演劇にかかわる人を応援したい!」という熱い思いを胸に、ライター活動を行っています。