演劇が催されている「劇場」に存在する人間は、基本的に2種類しかいません。
それは「舞台を製作する人」と「舞台を観劇する人」です。
言葉にすると当たり前ですが、「演劇」というものは、「舞台製作者」と「舞台観劇者」という、2種類の人間が出会うことで、初めて生み出されるコンテンツなのです。
そのどちらかが欠けたら成立することはありません。
小劇場に関わる人間が、自分自身を「舞台製作者だ!」と宣言する事は、意味があると思います。
周りの人間、そして自身に対しても、そういった存在だと認識させることで、新しい出会いや、創造があるはずだからです。
一方、自分自身を「舞台観劇者だ!」と宣言する事には、どういった意味があるのでしょうか?
そういった宣言することによって、いったい何が起こるのか?
また、「小劇場」コミュニティーや「演劇」に、どのような影響を与えるのでしょうか?
”どんぐりマミー”さんは、年間数百本の小劇場の舞台を観る、生粋の「観劇者」です。
そして、彼女は自分自身を「舞台観劇者だ!」と宣言をしており、さらに「観劇者による演劇プロデュース」という、新たな試みを始めています。
今回はそんな「観劇者どんぐりマミー」さんと、「乙戯社主宰のいちかわとも」さんによる、対談インタビューを企画しました。
「観劇者」とは、どういった存在なのか?
そして「観劇者による演劇プロデュース」とは、いったい何なのか?
対談を通して「観劇者」という存在を探求していきます!
書き手:夫婦ライター Ebihiyoko
舞台製作者”いちかわとも”×舞台観劇者”どんぐりマミー”対談記
まずは自己紹介


あと、今回「M&Mプロデュース」という団体を立ち上げて、7月31日~8月5日の期間で、様々な劇団を招いた「演劇交流イベント」を開催する予定です。こちらこそ、本日はよろしくお願いします。
「観劇者」って何ですか?

毎年非常に多くの舞台を観劇し、自身で演劇イベントも企画されている、生粋の「観劇者」であるマミーさんとこのテーマを掘り下げていきたいと思っています。
まずは、マミーさんが、どんな「観劇者」なのかを伺いたいのですが、年間、どれくらいの舞台を観劇されるんですか?


そこまで、小劇場に「ハマった」理由は、何かあるんですか?



年頃ですからね、しょうがないんですがたまに死ねなんて言われて、スルーしきれないと落ち込むこともあって(笑)。
そんなとき、舞台を観劇する機会があって、終演後の挨拶で息子とそう変わらない年頃の、俳優さんたちに「観劇いただき、ありがとうございます!」という言葉を、かけていただいて。
「あっ!?この子たちは私に死ねって言わない!そして優しい言葉をかけてくれる!そうよね。息子と同じ世代の男の子たちも、外ではちゃんとしてるのよね」って、なんだか感激してしまったんです!
それが私が観劇にハマるきっかけですね。
私、その頃、けっこう(心が)弱ってましたね(笑)。

演劇に救われた体験があるわけですね。その後はどのような活動を?

私が主に発信しているTwitterの140字でもすごい時間がかかるんですよ。なので、長年演劇を観る中で「劇評をする」のではなく、「私の感想を発信する」ことに徹しようと思ったんです。

言語化しがたい魅力を持つ作品も少なくないと思うのですが、マミーさんはそこを無理に言語化しようとせず、「自分の感覚を伝える」事に徹しているので、観劇の「感覚」が的確に伝わる気がするんです。
「何を感じたか」は「観劇の感想」を発信する上で、重要なエッセンスのように思います。そのエッセンスがマミーさんの「観劇の感想」には確かにあるのではと感じています。

ただそのことを通して「自分が舞台に立ち続ける側は無理だ」と感じて、「観劇者」の立場で演劇に関わり続けることに決めたんです。
なぜ「観劇者」の立場にこだわるのか?

ところで、マミーさんは「観劇者」という立場にこだわられ、今回の試みも「観劇者による」演劇プロデュースという、枕言葉がついておりますがその理由を伺いたいです。

私自身は「本業を辞めて、演劇のプロになりたいほどの気持ちで取り組む」活動はとても出来ていませんし、出来ないと思います。
ただ、それでも演劇は誰でもできるモノだと思っていますし、東京では、お金があれば劇場を借りることはできるから、観劇者がプロデュースしても大丈夫じゃないかしら、と思うことがあるんです。それを試してみたいです。

もちろんそれが悪いとはまったく思っていません。でも私は「舞台製作者も、観劇者も、自信をもって演劇をやろうよ!観る人も、自信をもって観ようよ!」っていうことを言っていきたいですし、観劇者の立場から演劇に積極的に関わっていきたいと思っています。

自分なりのペースやスタンスで演劇を創っていってもいいのかもと最近考えています。演劇はどんな立場や状況の人にも寄り添ってくれるものなのではないかと思うからです。
その部分は、マミーさんと似ている気持ちだと思います。脚本を書く事に関しては、自分の色々なものを費やして書いている感覚があるのですが、実はプロデュースや演出に関しては初心者だということに、甘えている部分があると思っていて。初心者が担当して、舞台に上げることに対する後ろめたさも、実はありました。
だけど年齢を重ねていってふてぶてしくなったのか「ま、いいか。私なりにがんばれば。」という気分でまず公演を一つ創ってみました。自分がそういった種類の後ろめたさや、甘えを抱えながらも、公演をとにかく創りあげようともがいている最中なので、「演劇は誰でもできる!」という言葉を聞くと、勇気づけられます(笑)。

もしかしたら「演劇の最上級は”やる”ことだけじゃない気がする」っていう、あまのじゃくな部分は少しあるのかもしれませんけれども・・・
「演劇を”みる”楽しみは”やる”ことに負けてない!」ということを、とにかく言っていきたいのが一番です。観るのはとにかく楽しいですから!

その現状を変えたい……までの強い気持ちではないかもしれないけど、「小劇場の内へ内と向かっていく意識を、もう少しだけ”観客”の方に向けて、小劇場の世界が閉じていくのではなくて、拡がっていくものであって欲しいな」という願いはあるかもしれないですよね。

舞台制作者の方達にずっと活動を続けてほしいし、それをずっと観ていたいと思うんです。その為に、小劇場が盛り上がってほしい。応援したい。
盛り上げる為には、もっと「観劇者」もパワフルでありたいと思います。「舞台にいる人と客席が対等でいる」こと。「観客を成長させられる舞台」と、「舞台を成長させられる観客」が、もっと小劇場の世界には必要な気がしているんです。


参加者は、観劇者の方もいれば、役者の方もいまして、演劇をやっている学生もいれば、照明会社を立ち上げて裏方をやっている方、ダンサー休業中の方など、本当に年齢や立場問わず、いろんな方に参加いただいています。


8割以上がおひとり様での参加、半分以上が”初めまして”の方です。中には、Twitterですら絡んだことがない方も参加されたりしています。


私は、「とにかく来てください」と答えるしかないんですが。正直1~3回目の時は、始まりの15分間だけは気まずい雰囲気でした。全員が初対面、8割以上がおひとり様参加、私も半分はTwitterでの絡みもない人達で、最初の15分は私のボケにも誰も笑わない雰囲気で(笑)
でも、「演劇」というキーワード、共通話題があると、最終的には本当に盛り上がって。その様子は、見ていて面白いですね。ある回で、20代と50代の男性同士が、つかこうへいさんの話で盛り上がっていたんですよ!
私、その様子に感動しましたね。はじめは、その50代の方も、「話題が合わなかったらどうしよう」と心配されていましたが、終了後には「自分の子供くらいの年齢の子と、つかこうへいさんの話で盛り上がれるとは思わなかった。すごく楽しかった」と言ってくださいまして、本当に嬉しかったです。


確かに小劇場の観劇者は、一人で動いている人が多いように感じます。その20代~50代の立場も性別もバラバラの一人の人間同士が、
初対面にも関わらず、演劇の話でずっと話せているのが、私は素晴らしいと思います。あと、損得なく「交流する」場なのが良いかもしれないです。
観劇者の私が開催することで得られるメリットと言えば、「色んな人と話ができて、楽しい」だけじゃないですか、だから参加した観劇者の方からも、「安心して来られる」といわれていました。

劇場面会だとどうしても短い時間での接点になるので、観劇者の方は、「いつも観てます!」と伝えるのがやっとだったりしますよね、それが「演劇飲み会」だと、「どうしてファンになったのか?」、「どういうスタンスで応援してくれているのか?」まで、話すことが出来るんですよね。
例えば、前回参加していたある女優さんを応援して地方までリピートしている観劇者の方で、「ファンじゃなくてサポーターなんだ!」という想いで観劇している方がいて。
そういった想いは、ゆっくり話ができる場じゃないと見えてこないですし、伝えられないですよね。製作者にとって演劇飲み会という場はきっと、
「演劇を製作している自分の何かが、演劇を観劇している誰かの救いになってる」と気が付くことができる場所なんだと参加してみて分かったんです。
そういった意味で私自身も、とても驚くことが多く、製作者にとっても励みになる飲み会だと思います。

あと、製作者のひとりであるいちかわさんに、そういう感想を持ってもらったことは、私にとっても励みになります。こういった風に、多種多様な方に出会えるのが、「演劇飲み会」の醍醐味です!!
対談(前編)を終えて
お二人の話からは、「演劇」と「小劇場に関わっている人」への愛情を感じました。
共に「自分自身が楽しむ!」という大前提を大切にしながら、それぞれのスタンスで、小劇場を盛り上げるための様々なアクションに取り組んでいる姿は、とても素晴らしかったです。
マミーさんの「観劇者としての活動」の先に、「舞台の制作者と舞台の観劇者、それぞれが自信を持って演劇を楽しめる空間」としての「小劇場演劇」の幅広い可能性が広がっているのではと感じられました。
前編は以上です!
後編では、マミーさんが【7月31日~8月5日】で行う、「観劇者による演劇プロデュース公演:M&Mプロデュース」について伺っていきます。
【Ebihiyoko】 乙戯社サポーター/夫婦WEBライター
夫婦でライターをしている二人組。二人合わせて「Ebihiyoko」です。
両名とも1988年生まれ、東京の大学の演劇サークルで、
4年間演劇漬けの日々を送っていました。今は、夫は目黒区のIT企業、
妻は生保業界で、それぞれ忙しく生活しています。
「演劇にかかわる人を応援したい!」という熱い思いを胸に、
ライター活動を行っています。
こんにちは、”いちかわとも”です。「乙戯社」という劇団の主宰です。
「乙戯社」は、これまで私が書きためていた演劇の脚本を発表するために立ち上げた劇団で、リリカルなラブストーリーにオリジナルの音楽が寄り添う音楽劇を中心に公演をしています。
その中で、私自身は主に脚本と演出を担当しております。
今年第1弾プロデュース音楽劇「サイドシートひとつぶんの新宿」を上演し、8月2日に再演を予定しております。本日は、よろしくお願いします。