はじめまして須藤健太ともうします。
千葉県最南部の館山市で酪農と演劇をやっています。
年々少子高齢化が顕著に表れる地域で、劇を続けていく為に行なってきた事を記してこうと思います。
地方演劇に興味がある人にとって、なにかヒントにでもなれば嬉しいです。
3年計画で、地域と共にゆっくり成長していく
私の劇団の所在地は千葉県館山市です。房総半島の最南端。市内に大学はありません。映画を見に行くのに車で1時間かかります。
東京までは高速バスで2時間です。夏になるとウサギ・タヌキ・イノシシが出て田んぼや畑を荒らしていきます。2014年には「消滅可能性都市」と認定されました。
この地で劇を上演する際、お客様を250人呼べる時もあれば2人しか呼べなかった時もありました。
なぜ公演毎でそれだけ大きな違いが現れたのか、理由は分かりやすかったです。
地域の為を思った公演は集客できて、自劇団のことだけを考えた公演は集客できませんでした。
自分はどんな劇団を作りたいのか明確にする
劇ができる環境って素晴らしいですよね。
私は都内の俳優養成所に通ったり、大学の演劇サークルで年に数回公演を打ったりした後、現在の館山で劇団を立ち上げました。
当初は「仲間がいない」「劇場がない」「観客がいない」の三重苦。旗揚げ公演は「自分の書いた脚本を、実家の牧場の一角で、兄と上演する」という形でした。
この時、私はただひたすら好きな劇をやれることや、地域への感謝を込めて取り組みました。具体的には、
- 地域活性化のため、牧場で劇を上演することを4つの新聞社に頼んで宣伝記事を書いていただいた
- 来場してくださった方に楽しんでもらえるよう、公演当日は地元の農家による市場を開いたり、地域のフォトコンテストを展示したり、アマチュアバンドによるライブを開催してお祭りイベントにした
結果、初の牧場劇は会場満杯の150名来場で終えることができました。
演劇の盛んな地域に比べ見劣りする来場者数ですが嬉しかったです。来場者の9割以上が演劇関係者ではないというのも新鮮でした。
みなさんは地方演劇に取り組む際、いくらの料金で、年間何回の公演を打ち、それぞれ何人の動員を目標に考えていますか?
地方で演劇をやり続けるのなら、自分の定める目標を達成するべく、地方を育てていく感覚で3~10年かけて長期計画を練りつつ公演を打っていく必要があると考えています。
消滅可能性都市でも劇は作れる
そもそもなぜ地方演劇をするのか。それぞれの理由があると思います。
- 故郷を芝居で盛り上げたい
- 仕事・生活の場が地方であり、そこから離れず劇を続けたい
- これから地方での文化活動が日本を支える時代になる、と思っている
集客のみに関して言えば、志がどうであれ、地方活性化を考えれば考えるほど多くの動員が期待できます。
たとえば「メディアに宣伝依頼」「有名人の起用」「キャッチーなストーリー」「チラシ配布」など、やり方は多々ありますが、地域への貢献度で集客が左右されます。
しかし、それを考えれば考えるほど自分がやりたい劇と離れてしまう可能性もあります。
たとえば、できるだけお金をかけずたくさんお客さんを集めたいのなら
「広場がある道の駅で、その地にゆかりのある演歌歌手に前座をやってもらったあと、地元の名産物や歴史を掘り下げた内容の人形劇を上演。宣伝はローカル新聞紙に依頼」
という公演を打てばある程度達成できると思います。NHK等に取り上げられることも可能でしょう。
ただ、テーマはだいぶ狭められてしまっています。それでも、この公演により劇団が周知されれば翌年には役者仲間が増えるかもしれません。そして、やりたい芝居をたくさんの人の前で披露できるかもしれません。
地方演劇においてテーマに地域性を内包することは、都会での演劇に比べて、集客に強く影響します。
あとは劇団の目標設定、そして主宰のバランス感覚に任されるところです。
そして、これは本当に個人的な想いですが、人の胃袋に入らない「劇」という文化活動ができる環境自体に感謝し、焦らず長期的な目線で自分の目指す劇団を作っていくことが、地方演劇には必要だなと感じています。
あの「わらび座」も、劇場を建てるまでに20年以上の積み重ねがあります。
これからはこの連載を通して、さらに具体的な事例・私が失敗したこと・農業と演劇の可能性について、記事を書いていければと思います。
ありがとうございました。
須藤健太
千葉県館山市 ㈱須藤牧場4代目
酪農劇団須藤兄弟 主宰/脚本/役者
牧場では130頭の乳牛の世話、牛乳の生産、経理を担当。また、牧場は教育ファーム認証牧場として酪農体験なども行なっています。
ツイッター :@sudoumakiba
劇団Webサイト:http://www.sudo-farm.com/gekidannfreem.html