2016年の年末、12月28,29,30,31日の朝から晩まで、という笑っちゃうような日程で、花まる学習会王子小劇場が演出家のワークショップを行っていました。
その名もディレクターズワークショップ略してDWS。概要はコチラ。そのだいたいの全貌はツイッターの「#DWS2016_oji」というハッシュタグでわかります。今回、僕も参加してきたのでその感想を書いてみます。いやもーとんでもない地獄だった。
DWSの概要
感想の前にこのワークショップの概要を。
- 日程:12月28,29,30,31日の10時〜18時(ただし、チームごとに集まったりするので実質20時とか22時とかまで残ったりする)
- 場所:花まる学習会王子小劇場(ここで公演打とうと思ったらプレゼンして通らないといけなかったりします。あとこのワークショップ以外にも色んな企画をやってて、若者応援してる感がひしひしと伝わってくる感じの劇場です)
- 料金:無料(意味わからん。すごい)
- 内容:演出する能力を鍛える。チームごとに演出家1名、演出助手1名、役者2名、見学3名程度。全部で6チーム。そのうちひとつはファシリテーターの劇団アマヤドリ主宰広田さんが演出をする。全チーム、与えられた戯曲(ヘンリック・イプセンの「人形の家」)の1シーンを4日間で演出を詰めていって作り上げる。役者は事前にセリフを入れてくるように言われている(セリフ入ってない人が全部で3人いました。運営の人たちが代理の役者をやってくれました)。
- 具体的な進行:毎日、10時〜15時まで各チームで稽古。15時から18時まで各チームの発表&講評。講評では演出家は広田さん、運営陣だけでなく参加者全員から容赦なく血祭りにあげられる。
- 運営の人が言ってた気がするWSの狙い:演出家って、成長する機会少ない。主宰が自分で作・演出してる団体とかだと、演出に文句言う人が周りにあまりいない。そこでこのWS。ここでぼろくそ言われて、心折れて致命傷をくらってもらって、本番で大失敗することを予防してもらいたい・・・みたいなことを芸術監督の北川さんがおっしゃってたような気がします。
結果、僕は本番で大失敗した方が100倍ラクなんじゃないかと思うくらいこのWSで大失敗しました。
ただでは済まない4日間
で、僕はありがたいことにこのWSには演出家枠として参加しました(演出家枠と役者枠があるけど、演出家枠で参加できるのは40人くらい中5人だけ。かなり倍率が高い)。
で、結論から言うとものすっごい「いい」体験ができたワークショップでした。ワークショップにおける「いい体験」って色々種類があると思うんですが、ここではもうほんとに一番いい種類の「いい体験」が出来たと思っています。何言ってんだコイツって思うよね。おっけ。僕の4日間をちょっと赤裸々に書いてみます。
1日目(地獄の幕開け)
1日目。広田さん含む6人の演出家が前に立って、それぞれ質疑応答含めて10分ずつくらい、各々の演出プランをプレゼンします。で、僕は「演出プラン」っていうものがどういうものがまったくわかっていなかったんですね。
今まで作・演出を一人でやってきて、自分が書いた脚本を、脚本書きながら頭に思い描いたものを指示出せば演出できてたわけです。だから「今回はこういう脚本でいきます」とさえ言えばそれでよかった。「こういう演出でいきます」は言語化したことがなかった。だからって「演出プラン?ナニソレ」状態で初日に挑んだ僕は愚かでした。
プレゼンでは僕以外の演出家たちは紙の資料やパワポ資料を出したりして、色々喋ってました。そこでやっと「演出プラン」というものがどういうものか理解しました。
自分が思う「該当シーンが本編全部の中でどんな役割がある、何を表しているシーンなのか」「登場人物はどんな心境なのか(できるだけ具体的な言葉で詳しく)」を説明した上で、「自分は演出家としてこのシーンの何を重視しているのか」「何を表現したいのか」を示し、さらに「小道具、衣装、照明、音響などをどうするつもりなのか」「4日間、どんな風に演出を詰めていくつもりなのか」を伝えることです。
ははあ・・なるほど。ちなみに山口はこれを理解するのに2日を費やし、自分なりの演出プランというものを3日目の朝にこしらえることになります。
はい。もう手遅れですね。プレゼンではもちろんズタボロでした。「こいつ何も考えてねえ」ってことが40人にバレてたと思います。
で、全員の演出プランのプレゼンが終わったらチーム編成が決まる。どうやって決まるのかというとこれもエグくて、「自分が一緒にやりたいと思った演出家の名前を第三希望まで書く」んですね。どこまでもオープンですねこの劇場は。エグい。だがそれがいい。
で、こんな僕のチームにも5人、集まってくださいました。そして初日、15時まで稽古し、発表し、講評。
この講評が、ほんとうにビシバシきます。広田さんや運営の方々が特に、本当につかれたくないとこついてきます。もう聞かれる質問が答えられない内容ばかりで本当に辛かったです。
1日目の夜、運営陣と各チームの演出家と演出助手で集まって会議がありました。
「さっきの発表でセリフ覚えれてない役者がいたけど、運営人が代わりに入ることもできます。変更しますか?」という内容。僕のチームにもセリフを覚えられていない役者がいました。
運営人を入れるなら早い者勝ちで好きな人を指名する制度で、僕は一番怖そうで一番ためになる叱責をいただけそうな北川さんを指名しました。これが功を奏します。深い意味で功を奏します。
2日目(山口、死す)
はい2日目。サクサクいきます。
2日目の昼、やっぱり人形の家をどう演出していいのかさっぱりわからなかった僕は思い切って今思ってること全部北川さんにさらけ出しました。
「人形の家のおもしろさが僕にはわかりません」「頑張って読み込んでも、広田さんや北川さんより読み込めるとは到底思えません」「もうやだ帰りたい」的なことをご相談させて頂きました。そしたら北川さんは「信念ある誤読は、精読に勝る」というようなことをおっしゃいまして・・(一字一句覚えていなくてすみません)。
そしてチームのメンバーの前で、北川さんにさらけ出した内容をさらけ出しました。死ぬかと思いました。殺されてもおかしくありません。
演出家として参加したかったのに参加できなかった人がいるから。でもまあ、チームのみんなは「でしょうね」みたいな反応でした。僕が無能なことはもうバレてますから今思えばそりゃそうですね。僕のチームの演出家は2日目にして演出家として白旗をあげたわけです。
で、北川さんが「いっそ開き直ってコメディにしたら」と言いました。実は初日の夜から演出助手からもこの提案があったのですが、イレギュラーな演出をして怒られるのをビビってできなかったんですね。
で、2日目コメディ、上演しました。お得意なコメディということで、なんとか山口、息を吹き返しました。生き返りました。正しくは、生き返ったと勘違いしました。
2日目発表が終わった後、講評も終えた後、チームで集まっていたときに、そこそこ朗らかな雰囲気の中、山口が北川さんの何かの発言に対して「え?」って言ったんですね。にやにやしながら。嬉しいからね2日コメディして無事終わって。にやにやしてた。
そしたら北川さんにものすごく怒られました。「今日は出血大サービスだ」「お前が読んでこないのが悪いんだろう」「なんでお前のせいでおれら役者が恥かかなきゃいけないんだ」「演出プラン書いてこいよ」と。
もう人生でダントツで一番怖かったです。一番怒られました。泣きそうになってゆとりを感じました。自分がこのまま3日目を迎えてはいけないんだということがとてもよくわかりました。自分がどんなにいけないことをしたのか、どんな状況なのかもよくわかりました。怒られないとわからなかったんですね、このバカは。
みんなで話し合い@ガスト
その日の夜、チームでガストに行きました。僕は演出家と演出助手の会議があったので遅れていきました。
今度はチームにフルボッコにされるんだろうなと思いながら行きましたが、僕のチームの人たちは、「山口が人形の家の面白さがわからないというのなら、どこがどう面白くないのか考えてみよう」と、話し合いの場を設けてくれたのです。
情けない。情けないです。演出助手と役者と見学に助けられる演出がここにいるぞー!!みんな!!火を放て!!
しかししかし、この日のガストがですね、僕は、なんなら他のチームにも自慢したいくらい楽しかったんですよ。
チームのみんなと、「ここでノラはこう思っているんだよ!!」「わかる!!例えばツイッターの裏アカウントが見つかったときのあの感じだろ!?」「いや近いけど少し違う!!」とか、話し合うわけですよ。
僕は今まで、一つの戯曲をここまで複数人で話し合ったことがなかった。「ノラは最初からこのバッド・エンドを心の奥底で予見して、どこか期待していたフシがあるんじゃないか!?」という僕の意見に「それは新しい捉え方で山口独自のものだから大切にしよう!」と背中を押してくれて、本当に助けられました。時々「いや!私はこう思う!」ということがあっても、「ここは山口チームだからこの軸だけは山口の考えを大事にしよう」とか言ってくれて、死ぬほど嬉しかったです。
3時間くらい会議して、最後に「演出で迷ったら立ち返るキーワード」を決めて、「明日から頑張ろう!」といういい空気で会議を終えることができました。少なくとも、会議自体を楽しんでいたのは僕だけではありませんでした。
会議終了時、ある見学の子が「山口さん選んでよかったです」と言ってくれた時には泣きそうになりました。
3日目と4日目
3日目の朝、北川さんに演出プランを説明し、「うんうんわかる」と言ってくださり、ほんとに嬉しかったです。僕なりの「人形の家」ができると思えました。初日の「演出プランってなに?」から比べるとびっくりするくらいの進歩です。
その後の稽古はとても楽しかったです。「そのセリフを言いながらノラがクログスタットから離れるとちがくない!?」とか、「そのセリフ言うときはクログスタットはまだノラに触れないほうがよくない!?」とか、めちゃめちゃ具体的な意見が出せるのです!
そしてそれら全て、理由を具体的に論理的に説明できるのです!演出の軸が決まっているからです!しかも演出の軸を僕だけでなくチーム全員で共有しているので見学の人もガンガン意見を言ってくれるのです!!
人形の家の稽古がこんなに楽しくなるとは2日目の昼までは本当に想像だにしていませんでした。演出家として、「演出って楽しい!」と心から思えたのでした。とんでもない成長です。そもそも演劇の面白さを僕は今まで知らなかった、とさえ言えるでしょう。
そして3日目、コメディじゃないやつをやり、4日目、どえらいコメディをやり、もう色々と物議を醸して、やっぱり叩かれるところは最後まで叩かれて、でもどれも有意義でした(サムネイル画像が4日目の公演画像です。クッキングしています)。4日目の質疑応答の一つ一つが楽しかったです。見直したら戯曲のどの1行も、意図が説明できない行がないのです。これは本当に幸せなことです。
ちょっとさすがにもう長いのでこの辺でまとめたいと思います。
4日目の最終発表は照明、音響も指定して、ちゃんとやって、全チーム終わった後には6人の演出家のところに参加者全員がローテーションで意見を言うという地獄のフィードバックタイムが与えられました。
僕は本番終了後間もなく、演出助手の子に「本番、なんかいい感じに終わったけど、山口さんはこれで『よかったよかった』っていい気になって楽しく今日を終えちゃいけない気がする」としっかりと釘を刺されているのでこのフィードバックは正座で挑みました。うんそうだよね。演出プラン考えてこなかったやつが、うんそうだよね。
飲み会&まとめ
フィードバックタイムの後は飲み会。みんなで飲みました。本当に楽しかったです。あっ楽しんでいい身分の者ではないのだけど。でも楽しかったです。
このWSのすごさを最後の飲み会で改めて感じました。それは「参加者に主宰がとにかく多い」ということ。ほとんど何かの主宰や作・演出をされてる方々でした。広がる人脈がとどまる所を知りません。大晦日の夜遅くまで、もう大晦日ということがほんとにどうでもよくなるくらい演劇の話をたくさんしました。こんな場所は今まで知りませんでした。
あんまり自慢げに言ったらどうせまた怒られるんだけど、自慢したいくらい成長できました。今回の参加者の中で一番成長したのは僕だと思います。
そんなわけで、花まる学習会王子小劇場のディレクターズワークショップ、おすすめです。死ぬほどおすすめです。死ぬほど。
ちなみに。
ご本人の了承のもと、今回のワークショップ主催の花まる学習会王子小劇場の北川さんの振り返り記事のリンクも合わせて載せておきます。山口のダメっぷりがよくわかります。
Thick and strong/ディレクターズワークショップなぞ
山口翔平
舞台屋アホロ作・演出・役者・広報。デザイナー・webデザイナーとして仕事をしながら舞台をやっています。武蔵野美術大学出身。脚本・演出・チラシデザイン・webサイト作成のお仕事承ります。
twitter→https://twitter.com/twishohei
デザインの仕事の事例→http://yamaguchishohei.tumblr.com/
お仕事のご依頼→yamaguchishohei93@gmail.com
舞台屋アホロ
武蔵野美術大学生が立ち上げたコメディ専門の演劇集団。テンポのいい脚本の伏線回収の気持ちよさ、美大生がつくる仕掛け満載の舞台美術などが特徴。コンセプトは「笑い8割、感動2割のアホ・ロマン・エンターテイメント」。
次回公演
舞台屋アホロ『ガンボーの中身(仮)』
日時:4月7日(金)〜10日(月)
場所:花まる学習会王子小劇場
詳細は追って公式サイトで告知致します。
公式サイト→http://butaiya-ahoro.com