小劇場演劇のチラシはなぜダサいのか

小劇場演劇のチラシはひどいデザインのものばかりです。なぜこんなにダメなのか、どうすべきか。デザイナーの視点から言わせて下さい。

僕は武蔵野美術大学のデザイン情報学科でwebデザインを学び、卒業後の今もフリーランスとしてデザインのお仕事をしながら舞台をやっています。自分の所属する舞台屋アホロのチラシ、ポスター、ウェブサイトなども全て自分で作っています。僕が思うに、小劇場演劇界のデザインは本当にダサいものが多い。

山口翔平コラム→舞台作品の成功と失敗の線引き

どこがどうダメか

チラシのクオリティが「大人のお仕事」レベルになってない。これはなにも「デザイナーのセンスからすれば」とかいう話ではなく、他の業界と比較しても明らかです。

何年もやってる劇団のチラシが大学サークルレベルなんてザラ。美術大学の演劇サークルのチラシに負けてる。デザイナーからすれば「業界が全体的にやる気がないんじゃないか」と疑う。

今の小劇場演劇界のチラシはそんな状態です。もちろん素晴らしいデザインのチラシを作っている劇団もたくさんあります。でもそれは圧倒的に少数。

もし自分の所属する劇団が「新規顧客を掴みたい」あるいは「演劇に馴染みのない人も呼び込みたい」と思っているのならチラシのデザインをもっと考えるべきです。そこが最初の入り口なのだから。

具体的によくある問題点を見ていきましょう

情報が足りない

公演に関する情報が圧倒的に足りない。特に「どんなお話なのかよくわからない」チラシがとにかく多い。

これは脚本家の仕事が遅ければ遅いほどそうなります。お客さんからしたら地雷以外の何物でもありません。

脚本家は「広報のために」早く書きましょう。悪い意味で言う「芸術家肌」な劇団が多すぎる気がします。

「いいものをつくるために」脚本がギリギリまで完成しない。でもその実態のほとんどは単なる「ラストスパート思考」です。

締め切りギリギリにならないと頑張れない。本番が締め切りじゃありません。広報が締め切りなんです。

デザインの基礎ができてない

裏面に文字がびっしり書かれていて遠目から見ると新聞記事かと見紛うようなチラシを時々見かけます。

もう、センスがないとか以前の問題です。チラシに書いた文字をお客さんが全部読んでくれると思ったら大間違いです。

情報量は「読んでもらうために少なく」しましょう。詳細はwebサイトに書き、チラシには基本情報のみ書きましょう。

「みどころ」や「劇団について」などのコンテンツで文字数が増え、その結果パッと見て見づらい紙面になっていて基本情報さえ探しにくい、となったら本末転倒です。

なぜデザインが重要か

例えば「演劇を普段見ない人が演劇を見に行くきっかけ」とはなんでしょう。

圧倒的に多いのが「知り合いに誘われて」だと思います。この時に知り合いからチラシ画像を見せられて「おもしろそうだ」と思われるか「学芸会レベルだ」と思われるか、このラインをせめてクリアしないとダメでしょう。

僕は一般の(小劇場演劇を一度も見たことがない)人はただでさえ「小劇場演劇」=「よくわからない」「自己満足」「ちょっとイタイ人たち」「学芸会」のようなネガティブなイメージを持っている場合が多いと思っています。

僕が演劇に興味を持つ前はそうでした。だからチラシで「きちんとお金が動いている大人のお仕事レベル」「プロの映画や舞台のチラシと遜色ないレベル」を叩き出さないと小劇場演劇は娯楽として普及していかないと思うのです。

チラシは新規顧客にとって劇団の顔です。初見の人は、チラシのクオリティが舞台のクオリティだと思って見ています。自分たちの作る舞台が、その辺の映画や舞台よりも面白いという自信があるのなら、チラシのクオリティもそれに勝るよう努めましょう。

デザインのクオリティとは何か

とはいえ世の劇団の多くはお金がありません。ウチもそうです。

舞台屋アホロの場合は僕が自分で全ての広報物のデザインを担当していますが本当は腕の立つデザイナーに何十万というお金を払ってプロレベルのものを作ってもらいたい。仕方なく僕がやっています。

他の多くの劇団が同じように仕方なく自前で作っていると思います。だったらみなさん、もう少しデザインの基礎を自分が勉強しましょう。

デザインのレベルが低い、というともしかしたら「デザインは人によって好き嫌いがあるから一概に低い高いで言えない」と思うかもしれませんが、それは違います。

デザインには明確に「基礎レベル」みたいなものがあります。人によってデザインの好き嫌いは当然ありますが、大切なのは「わかりやすいか」「その団体にそのデザインが合っているか」そして「売れるか」です。

デザインは「格好をつけるため」ではなく「お客さんを呼び込むため」に存在します。

例えばコメディをやる団体がチラシで「コメディをやる団体だ」ということを伝えられているか。先程書いた「読まれるために文章量を少なくする」というのも基礎の一つです。そういう基礎的なことを、多くの劇団ができていない。

デザインのコツやスキルについてイチから話しているとキリがないので2点だけ、手軽に試せる練習方法を2つ、ご紹介します。

その1 つくったチラシを「プロが作ったチラシ9枚」と並べる

自分が作ったチラシを、プロが作った映画や舞台のチラシ9枚と一緒に並べましょう。

プロのチラシは自分が好きなチラシ、いいと思ったチラシで構いません。小劇場演劇のチラシでも構いませんが、できれば有名な、お金がかかっていそうなものがいいでしょう。実際に紙を目の前に10枚並べると、悲しいことに「好き嫌いの次元ではないデザインの基礎レベル」みたいなものが誰にでも一目瞭然でわかるはずです。

なんなら自分の演劇活動と全く関わりのない友達に「この中で一つだけ素人が作ったチラシがあります。どれでしょう」と聞けばきっと当たるでしょう。

じゃあ具体的にプロと自分達のチラシはどこがどう違うのか。簡単な間違い探しです。このようにして少しずつチラシのクオリティをあげていきましょう。

僕は自分の部屋に「自分の劇団の公演チラシ」と、自分がいいと思った他劇団、あるいは映画のチラシをたくさん貼っています。こうして自分の劇団の「素人レベル」を毎日確認して戒めているのです。

その2 友達に渡して数日後、チラシの裏面のどこを読んだか聞く。

自分が作ったチラシの裏面または表面は結局、どのくらい読まれているのか。具体的に聞いてみましょう。驚くほど読んでいないことが多いのではないでしょうか。書けば読まれるというのは作り手の幻想です。

料金、公演時間、場所、あらすじ、ぐらい読んでもらえれば御の字。劇団の作風紹介など、それ以上のコンテンツを掲載したいのであれば頭をひねるべきです。

僕は自分が作ったポスターやチラシを、いつもデザイナーの先輩に見てもらって意見を頂いているのですが、今回も「情報が多すぎる」と言われました。「あらすじと劇団紹介の文字数を半分くらいにしないと読まれないよ」と言われてしまい頭が真っ白になりました。

そのあらすじと劇団紹介文言は頭をひねりにひねって、一文字でも少なくしようと何時間も考え抜いた結果、もうこれ以上は一文字も減らせない、というところまで詰めたものだったからです。

でもそんな経緯はお客さんにはなんでもありません。「長ければ読まない」。心を鬼にして文字数をさらに半分に減らしました。

まとめ

デザイン業界自体が小劇場演劇業界とよく似ています。一般への理解が普及しておらず、誤解されがち。演技と同じで「誰でもできる」と思われがちで対価を理解してもらえない。

でもデザイン業界には「売れることが最終目標」という倫理が定着しています。小劇場演劇業界はどうでしょう。良くも悪くも「自分たちだけでイチから作って発表できてしまう」小劇場演劇。

もちろん作風は自由だしみんながみんな一般受けを狙う必要は全然ないけれど、チラシのデザインだけは自己満足ではなく「チケット売り上げにつながること」「お客さんを呼び込むこと」を最終目標だと認識してほしいと願います。

最後に、僕が所属している舞台屋アホロの最新作『インクに願いを』のポスターとチラシの画像を貼っておきます。実写で役者が映っていることで「演劇の広告だ」ということがひと目でわかるようにしました。

また見出しや役者の表情、並び、かわいらしいタイトルロゴなどで「これがコメディだ」ということもひと目で伝わるかと思います。

『インクに願いを』A2ポスター
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『インクに願いを』A4チラシ(表・裏)
『インクに願いを』A4チラシ表
『インクに願いを』A4チラシ裏

ちょっと長くなってしまいました。これがチラシの裏面だったらまた先輩の小言アドバイスが飛んでいたところですが、コラム記事なのでよしとしましょう。

山口翔平

舞台屋アホロ作・演出・役者・広報。デザイナー・webデザイナーとして仕事をしながら舞台をやっている。武蔵野美術大学出身。脚本・演出・チラシデザイン・webサイト作成のお仕事承ります。
twitter→https://twitter.com/twishohei
デザインの仕事の事例→http://yamaguchishohei.tumblr.com/

舞台屋アホロ

武蔵野美術大学生が立ち上げたコメディ専門の演劇集団。テンポのいい脚本の伏線回収の気持ちよさ、美大生がつくる仕掛け満載の舞台美術などが特徴。コンセプトは「笑い8割、感動2割のアホ・ロマン・エンターテイメント」。

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【次回公演】
※公演終了
舞台屋アホロ『インクに願いを』

「魔法は納品できないよ・・」
まだアニメが物珍しい時代。ある貧乏作家の絵が本当に動き出した。これをなぞって絵を描けば世界一のアニメーターになれる!しかし絵は言うことを聞かない。動くアニメを描くために、アニメを止まらせる戦いが今始まる!舞台屋アホロが贈る、アホ・アニメーション・エンターテイメント!

日時:10月29日(土)〜31日(月)(武蔵野美術大学芸術祭)
場所:武蔵野美術大学9号館309教室

公式サイト→http://butaiya-ahoro.com


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