バリアフリーからバリアバリューへ〜DIALOG IN THE DARKと共に初挑戦した、五感で楽しむ演劇〜

はじめまして。劇団銅鑼で制作をしております平野真弓と申します。銅鑼は1972年に旗揚げし、来年創立45周年を迎えます。所謂、新劇の劇団です。

45年というのは演劇界で老舗でもなく若手でもない中堅というよりは、宙ぶらりんな位置にある劇団でもあります。宙ぶらりんというのは、これといって大きな個性がないことにも繋がりますが、個性がないぶん公演によって自由に色付けできるという特徴にもなります。

そんな宙ぶらりんな私たち劇団銅鑼が、今回のアトリエ公演で取り組んだ色付け「五感で楽しむ演劇」。まずはどのような成り立ちでここまできたのかということからお話したいと思います。

「五感で楽しむ演劇」のスタート

劇団銅鑼では数年前より視覚障がい者向けにはイヤホンガイド、聴覚障がい者向けには台本貸出し、ソフトバンクによる字幕ガイド協力のほか、アイメイト(盲導犬)同伴の観劇、付添人チケット代無料、劇場により車椅子の対応など、バリアフリー対策をしてきました。

演劇は生物ですので稽古でセリフや動きが変わって、ガイドの方に徹夜で作成頂いたりまだ開発途中の機材も多く本番中トラブルがあったり、まだまだ四苦八苦しながらの取り組みです。

また、公演をより良くするため毎回観劇後にアンケートや助言を頂いていました。的確な助言もある中、視覚障がいのイヤホンガイドに関してガイドの量は人によって様々なんだということがわかり始めました。

ガイドがうるさいと感じたり、足りないと感じたり。話しているうちに、これは演劇の好みが人それぞれなのと同じことではないかと気づき始めました。

そして、演劇にもプラスになるアドバイスも頂いたのです。障がい者だからこそ持つ高い感性、能力。ここから初めての出会いへと繋がっていきました。

DIDとの初挑戦

皆さんはDIALOG IN THE DARK(DID)をご存知でしょうか。暗闇のソーシャル・エンターテインメントとして1988年ドイツで生まれ、これまで全世界39カ国、130都市以上で開催されています。

暗闇のエキスパートである視覚障がい者のアテンドのもと参加者が光を遮断した暗闇の中を体験しその過程で視覚以外の様々な感覚の可能性と心地よさに気づきそしてコミュニケーションの大切さ、人の温かさを思い出すエンターテインメントです。日本では1999年に初めて開催され、現在東京・外苑前に会場と大阪を中心に継続的に開催中です。

個人的に2002年に体験しとても刺激を受けたのを「障害者差別解消法」の記事を読みながら、「あの人たちはプロとして活躍されていたな」と、ふと思い出したのです。

その頃、銅鑼のアトリエで短編作品を3つ上演するのが決まっていました。銅鑼は年に2〜3回東京で公演をします。銅鑼のアトリエは普段は稽古場として使用していて、どのようなセットでも目の前を演者が通れば体感温度が上がるくらいの小さな空間です。

そのような空間で、時代も設定も違う3つの短編作品の上演は初めて演劇に触れる人たちにとっても色々な好みの作品が観られる企画でもあります。

そしてこういう企画の時にこそ、演劇の可能性が追求できるのでは。その一つが障がい者も一緒に楽しめる空間創り。そして誰もが持っている感情の可能性。これは、「プロ」に協力を得るしかないと思い、ダメもとでDIDに問い合わせたのが「五感で楽しむ演劇」のスタートでした。

はじめは「五感を刺激する演劇」だった

DIDにとっても演劇とのコラボは初めてのことで、最初はこちらからの意図や、やりたいこと、目指すところをお話しさせて頂きました。その中でDIDが出来ること、出来ないことを出して頂きながらお互い手探りでの始まりでした。ここで良かったのは、出来ないとこをはっきり伝えてくださったことです。それにより迷わず道が定まりました。

当初は「五感を刺激する演劇」だったのが、アドバイスをもらい「五感で楽しむ演劇」に変わりました。さらにバリアバリューという言葉があるということを教えてもらい、そこから全ての人がより演劇を楽しめる公演に向けて動きだしました。

演劇という枠を超えた楽しい企画

担当者の視覚障がい者のアテンドスタッフ2名とコンシェルジュ2名の方にアトリエに来て頂き、まずは演出家、美術家、舞台監督と打ち合わせです。まだ仮装置の段階で装置模型を触って頂きながら、どのような空間になっているか伝え、舞台を観てくださるお客様が楽しんでもらえるように対話していきましょうと確認して話し合いがスタート。

こちらが求めているのはこういう感覚など要望を伝え、後日企画書を提出下さいました。そこには演劇という枠を超えた楽しい企画が詰まっていました。その後、通し稽古、舞台稽古、本番と観て頂きアフタートークにも参加して頂きました。DIDとのコラボはとても有意義でまた楽しんで取り組んでくださったのが何よりです。

実際の公演について

さて、実際に取り組むのは演出家、プランナー、スタッフ、キャストとなります。ただでさえ3作品の稽古は時間がなく大変です。それにプラスして五感で楽しむ演劇要素を入れるというのは通常の芝居創りより気力体力がいります。そこを先頭きって創ってくださったのが演出の磯村純さんでした。

プランナーの皆さんもタイトな時間の中拘りをもって最後の最後まで追求して下さりました。このような企画が出来るのは、面白いと思ってくれるスタッフがいないと実現は出来ません。

磯村純のプロフィールはこちら

五感で楽しむために

実際にどのようなことを仕掛けたかというと、入り口に小さな部屋を作り少人数づつ入って頂き薄暗い中、簡単な公演の内容と諸注意を伝え、扉を開けるとそこには異空間の劇場が現れます。

この小部屋にはヒノキの香りを漂わせ草木をコラージュしていました。まるで自分の家に帰ってきたような懐かしい空間と、これから何が始まるんだろうというワクワク感があったと感想をいただきました。劇場に入れば足元には砂利が敷き詰められその上を歩いて客席へ。

シーンにより花(アロマ)、紅茶、ミント(タバコ)、香水、カレーの匂いを漂わせ、雨のシーンでは実際に水を上から降らしたり蝉が飛んできたり、音響、照明との効果で雷を表現したり。雨のシーンでは「砂かぶり席」と称して濡れた場合のビニールを配っていたのですが、逆にもう少し濡れたかったという感想が。様々なお客様が居るのでこの辺の判断が難しいところです。

今回は視覚障がい者のための舞台説明会で実際に舞台を歩いてもらったり、事前の案内メール、駅までのお迎え、出演者とのふれあい、装置模型での説明をし、聴覚障がい者の方には台本貸出し、アフタートークに手話通訳をつけるなど行いました。

舞台中では同じように感じて頂くためにお席は最前列をお取りしましたが、イヤホンガイド、ガイドブックは作成しませんでした。これは作品、スペースにもよると思いますが、皆さん楽しんでいただけたようです。但し、事前のご案内は必要なのと何も台詞がない「間」や、作品の繋ぎめなどはやはりガイドがあったほうがわかりやすかったようです。

本番を終えて

普段あまり意識をしない「五感」。どんなことがあるんだろうとワクワクしながら観て頂くと、どんどん五感が刺激され広がっていきます。3つの作品のキーワードは「不器用な家族」。アンケートを読むと、いつもより自分と重ねて観てくださったり、多かったのは「懐かしさ」という感想でした。

小さな部屋は日常から異空間への入り口です。騒がしい社会からたった2時間ですが、ゆったりと心の時間を持ってもらえたならこの「五感で楽しむ演劇」は企画して良かったのではないかと思っています。

今後の活動

次回東京公演は、2017年3月に六本木・俳優座劇場に於いて『彼の町』(かのまち)を上演します。こちらは300席の劇場で体感していただくには少々箱が大きいですが、何か出来ることはないかと模索中です。予定では、舞台説明会や事前のご案内とイヤホンガイド、ガイドブックの作成をしながら今回の経験を活かしていきたいと思っています。

【公演案内】
劇団銅鑼創立45周年記念公演第1弾ーNo.49
『彼の町』(かのまち)
作/青木豪 演出/大谷賢治郎
日程 2017年3月15日〜20日
会場 六本木・俳優座劇場
http://www.gekidandora.com


第二回しばいのまちオフ会開催!



10/28(土)13:00〜開催!