【連載企画】第1回:若い演劇人へのエールと叱責(時間堂・黒澤世莉)

若い演劇人へのエールと叱責

ご縁があって「しばいのまち」に寄稿させていただくことになりました、黒澤世莉です。演出家で、時間堂という劇団と、十色庵というスタジオをつくったものです。

19年ほど演劇活動を続けています。19年も同じことを続けているということは、なにかしらの知見があるのだろう、と見込んだ奇特な方が原稿を頼んでしまったのですね、私に。はたして「演劇をはじめたみなさまのお役に立てる」ようなことが書けるか分かりませんが、一所懸命書いてみます。よろしくお願いします。

最初のテーマは「若い演劇人に対してのエールと叱責」です。

第2回:演劇の流行り廃り
第3回:演劇を20年続ける方法
第4回:家族と演劇

努力をしているか?演劇を舐めてるのか?

突然ですが、サッカーは好きですか?私は好きです。

たとえば、子どもが「プロのサッカー選手になりたい」って言ったら、どうしますか?とりあえず地域のチームに入れてみますかね。そこで満足するようなら、それでいいでしょうね。

ズバ抜けて上手で見込みがあったら、その後クラブチームのユースとか、有名高校のセレクションとか、目指すんでしょうかね。そうなると、サッカー漬けの青春になりますよね。

「プロのピアニストになりたい子ども」でもいいです。街のピアノ教室に通わせて、そこで満足すればそれはそれでいい。

先生が真っ青になって「この子はオーストリアに出しましょう」て言われたら、あわてますよね。あるいは、本人がものすごくピアノが好きで、毎日一晩中弾いてて「将来ソリストになる」って宣言したら、応援するでしょうか。やめさせるでしょうか。

若い俳優さんらしきものと話していると、単純に勉強不足だなと思うことがしばしばあります。

ワールドカップに出たい子どもや、ショパンコンクールで優勝したい子ども以上に頑張っているかというと、そこまでやってないですよね。夢は語るが日々はバイト、みたいな。

プロフェッショナルになるには時間が必要

ビール飲む口実で演劇やる「余暇を楽しむための演劇」もあっていいと思います。むしろ働くみなさま、お母さんお父さん、おじいさんおばあさんが、演劇を通じて充実した余暇を過ごすなんてのは、ぜひやってほしい。

ビール飲む口実で演劇やってて、バイトと遊びに明け暮れてるわりに、偉そうに演劇に真剣なんですワタクシづらしてるひとは、ダメです。

「口では偉そうなこと言う割に努力してないひと」つまり「なめてるやつ」と、まじめに演劇したい人とごっちゃになるのはイマイチですね。まじめに成長したい人は、そういう「なめてるやつ」とは付き合わないように気をつけましょう。

演劇、俳優業に限らず、何かのプロフェッショナルになるには時間が必要です。1万時間の法則という有名な考え方があります。
1万時間の法則

この考え方が科学的に正しいかどうかは別として「継続的な努力をするものが、その分野のトップランナーになる可能性は高い」とは言えると思います。

「うるせーなー、何言ってやがんだ、私は違うし」と思われる方もいらっしゃるかと思います。もちろん、あなたが大天才であって、努力不要で瞬く間に最高のアーティストとして成功をおさめる可能性も、ゼロではありません。

ただ個人的な知見で言えば、そんな大天才は見たことがありません。重ねて言えば、私より売れている人で、私より努力をしていないひとはいません。売れる売れないは一つのものさしでしかありませんが、身を持って努力の必要性を感じています。

努力を楽しめる人が残っていく

「努力」とか「勉強」って日本語、お好きですか? 私は嫌いでして、なんでしょうかね。押し付けがましさとか、退屈さとか、強制されてる感、を感じます。

でも、これっておかしくないですか。本来好きなことに熱中するのって楽しいことだと思うんです。サッカーが好きでボールを追いかけ回す気持ち、ピアノに夢中でいつまででも弾いていたい気持ち。そういう気持ちで演劇をはじめたり、続けようと思ったり、したんじゃありませんでしたっけ。

きっと、演劇が好きで、舞台のことを四六時中考えて、そのために資料を調べるとか、からだ作りをするとか、たくさんの作品に触れるとか。そういう小さな積み重ねが楽しめる人だけ、生き残っていくんじゃないかな、て思います。

だから、努力とか勉強ってのは、楽しいものだと思うんですよねえ。演劇のための努力や勉強が楽しくないなら、芸術家やプロフェッショナルの演劇人になるのは諦めたほうがいいかもしれません。

だって、才能があって演劇が好きで楽しくて、だからどんどん努力して勉強しちゃう、ていうモンスターばっかりが生き残ってる世界ですから。トップレベルの演劇界って。

もちろん助成金を取ることばかり上手になって、うまいこと税金にぶら下がってる、なめてる先輩方もいるにはいらっしゃいます。でも、そういう生き方するなら、なにも演劇を選ばなくていいと思いますよ。もっとお金になること、いっぱいあるから、世の中。

今回の「演劇なめてんなー」と言っているのは、アマチュアの人々に対してでは無いです。むしろアマチュアの高校生や大学生、社会人の劇団は応援してます。演劇楽しんでね。そして、プロの舞台や芸術性の高い舞台も観てね、勉強になるから。

そうではなく、偉そうに夢を語っている人々へ「努力をしなさい」という話です。いまバカなことは仕方ありませんが、これからもバカでいいや、て思ってるやつは、本気で演劇やってるひとびとの世界からはご退場いただきたい。だれもあなたに無理して演劇を続けろとは言ってないんです。だから、趣味でやりたいならお仕事他に見つけたりして、のんびり楽しんでください。

自分の頭で考える癖をつける

頑張り方が分からない、そんなあなたは、まず自分の頭で考える癖を付けましょう。演劇は芸術活動ですから、言われたことをハイハイ返事して、言われたことだけやってりゃいい、てもんじゃありません。

自分の頭で考えた上で、分からないことがたくさんある。そこが、演劇のスタートですね。自分が言ったことをきちんとやって来る人、つまり情熱がある人には、だいたいの先輩が自分の経験や技術を伝えたがっているものです。

努力や勉強を惜しまない、自分の頭で考える演劇人になってください。

燃え尽きない工夫も必要

あ、ただ、燃え尽きは禁物です。こういうの書くとまじめな人ほど「分かったす、オレ頑張るっす!」て燃えて頑張っちゃうけど、これ読んで響く人はだいたいもう大丈夫です。

むしろあんまり頑張らず、持続可能な活動方法、たとえば週に一回は休むとか、年に1回は海外旅行に行くとか、なんかそういう、自分を甘やかす方法も知ってください。

無理して頑張ってて肝心なところでぶっ倒れるやつとか、超迷惑です。そこで「オレ頑張ってるぞ感」とか「倒れるまでやり込むオレカッコいい」的感覚、不要無用。パフォーマンスを維持、向上させるための「抜き方/リラックスの仕方」も、芸術家には必要な技術ですから。情熱は持つ、でものんびりもする。そんな感じで行きましょうよ。ね。

「で、具体的にどうがんばったらいいのさ」という質問へのアンサーは、拙ブログにて高校生向けのメッセージがありますので、ご参照ください。
俳優になりたい高校生へのアドバイス [2015.12]

次回は「流行りと廃り」について書きます。では、また。

<筆者について>
黒澤世莉
1976年、東京都生まれ。創立20週年を迎える時間堂の主宰であり演出家。スタニスラフスキーとサンフォードマイズナーを学び、1996年、時間堂として活動を開始、主に演出と執筆、翻訳を手掛ける。TGR札幌劇場祭作品賞、佐藤佐吉賞優秀作品賞、演出賞受賞。

インタビュー記事はこちら→時間堂主宰、黒澤世莉氏に聞いた「演劇の未来とは?」

若い演劇人へのエールと叱責


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