時間堂主宰、黒澤世莉氏に聞いた「演劇の未来とは?」

そもそも演劇の業界とはどういう構造になっているのか。外からは見えにくく、中で活動をしていても実はイメージがしづらかったりします。

また、演劇に携わる人々の未来に対する展望を聞いた時、個人として有名になることを夢見ても、演劇業界全体の未来や社会との関わりについて語る人はそれほど多くない印象を受けます。これから演劇人は何を考え、どういうことをすべきなのか。

今回はこの業界で20年以上活動を続けている、時間堂主宰であり演出家の黒澤世莉さんに現在の演劇の課題や未来の展望などについてお話を伺いました。

時間堂と黒澤さんについて

時間堂とは?

黒澤世莉さんが主宰を務める演劇団体。今年で立ち上げ20周年を迎える。当初は黒澤1名で活動していたが2009年よりメンバーを入れ始め、現在は黒澤さん、プロデューサー、俳優9名、計11名で活動をしている。

黒澤 世莉

1976年、東京都生まれ。創立20週年を迎える時間堂の主宰であり演出家。スタニスラフスキーとサンフォードマイズナーを学び、1996年、時間堂として活動を開始、主に演出と執筆、翻訳を手掛ける。TGR札幌劇場祭作品賞、佐藤佐吉賞優秀作品賞、演出賞受賞。
詳細プロフィール

お聞きしたこと

今回は下記の様なことをお聞きして来ました。

・黒澤さんの経歴
・時間堂について
・演劇業界事情
・演劇業界の構造
・小劇場の課題
・商業演劇に対して感じていること
・自身のワークショップの取り組みについて
・演劇や芸術の未来について
・俳優の仕事、キャリアパスについて
・時間堂や黒澤さん自身の今後の展望 など

今回は、下記5つのトピックスを抜粋して紹介します。

・演劇業界の構造
・小劇場の課題
・ワークショップの取り組みについて
・演劇や芸術の未来について
・俳優の仕事、キャリアパスについて

様々な質問に対して、独自の見解や哲学を交えながら、丁寧かつ優しく教えて下さいました。

自分の尻尾を食べる演劇人

演劇業界の構造

ーこんな初歩的な質問ですいません…演劇業界とはそもそもどういう構造になっているのですか?
黒澤さん(以下敬称略):いえ、全然大丈夫ですよ。様々な見解がありますが、あくまで私の見解だとざっくりと言って

・新劇(文学座、俳優座等)
・小劇場(時間堂含む、様々な演劇団体)
・商業演劇(宝塚、劇団四季、2.5次元等)
・公共劇場(新国立劇場、世田谷パブリックシアター等)

に分かれています。もちろんこの中でも更に色々なグループに分かれますが本当にざっくり言うとこんな感じです。商業演劇と公共劇場は仕事として食えていて、小劇場と新劇は仕事としては食べていけず、俳優の持ち出しや国の援助(助成金)で成り立っていると言われています。

小劇場の課題

ー小劇場で活動をしている皆さんの課題って何なんでしょう?
黒澤:小劇場に関しては言えば、先程も言ったように、この仕事だけで安定して生活をしていくというのが非常に難しいというのがあります。特に役者。裏方のスタッフは仕事として食えなくもないですが。

ーなるほど
黒澤:その原因の1つに会場キャパシティの課題があります。劇場はキャパシティが決まっています。300人しか入らない劇場でのチケットを売れるチケットの数は最大で300枚です。

例えばこの300人キャパの公演に、ざっくり予算が100万円かかるとして、チケット代だけでそれを全て回収するためには3,333円以上のチケット料金にする必要があります。一般の団体が「300人しか観れない」芝居のチケットを(3,000以上する値段で)買ってもらうというのは結構ハードルが高いです。

ー言われてみれば、確かにそうですね
黒澤:商業演劇等もチケット枚数に上限があるのは同じですが、公演以外の収益(グッズ販売)等でそれをカバーしています。しかし「可処分所得をいかに取るか」という商業演劇のやり方は、個人的にはあまり好きではないですけどね。

ー他に課題はありますか?
もう1つは演劇の外側にいるお客さんを呼べていないという課題があります。150年位前からこの悩みは変わってないんですけど。小劇場は演劇人がお互いの公演を見合うことで成り立っています。言うなれば自分の尻尾を食べてぐるぐるまわっている様な状態です。

-そうなんですね
黒澤:外部の人を呼ぶことの難しさは更に深刻になっている様に感じています。近年はIT化によって、人々は多くの情報に触れられる様になりましたが、逆に情報量が増えすぎたことによって、演劇を知らない人が演劇を知る機会はより減ったんじゃないかと思ってます。本当に演劇をやることが難しい時代になっていきているんだと思います。

(※黒澤さんの個人ブログでは、このあたりの話を詳しく書かれています。興味のある方はぜひ。→いま演劇をやっていて悩む、芸術とお金の事情

文化芸術は「幸せ」を作れる

小中学校の子どもたちへ、演劇のワークショップも行っているという黒澤さん。このワークショップを通じて、演劇が社会に対して価値を提供していく可能性を感じているとのこと。

ワークショップの取り組み

ーワークショップも行っているのですか?
黒澤:小中学生向けに演劇のワークショップを行っています。子供って運動がデキるヤツ、足が早いヤツがモテるというヒエラルキーがあるじゃないですか。そこで生き苦しさを感じる子たちもいる。しかし、演劇のワークショップでは、そのヒエラルキーが崩れます。普段脚光を浴びない子にもスポットを当てて褒めることで、自己肯定感を持たせる事ができます。また、「生き方は一通りではないんだ」ということも演技を通して学ぶことが出来ます。

演劇や芸術の未来について

黒澤:そもそも消費活動によって人々が満たされてきた時代は終わりを迎えつつあると持っています。お金ではない心の充足感を求める人々が徐々に増えてきています。そんな時代の流れの中で、文化芸術や演劇は、お金をかけずに「生きている充足感」や「自己肯定感」、つまり「幸せ」を感じるための一つの手段として、これからの社会に必要なものになる可能性を大いに秘めているんではないかなと思います。

ー確かに、そういう未来の幸せを作る可能性が文化芸術にはあるかもしれませんね

俳優のキャリアパスについて

ー未来についての話がありましたが、俳優の方たちなどはどういう風に自分の将来を設計しているのでしょうか
黒澤:キャリアパスを考えている俳優は小劇場では殆どいないと思います。考えられている人は、売れてちゃんとやっていけていると思います(笑)

まとめ

今回は1時間程お話を伺った中から一部を紹介しました。黒澤さんの広い知識や持っている哲学等は大変勉強になりましたし、何よりお話の随所から「演劇への愛」を強く感じました。

お時間を頂きどうもありがとうございました。

<連載情報>

黒澤さんの連載記事は下記からどうぞ。
第1回:若い演劇人へのエールと叱責
第2回:演劇の流行り廃り
第3回:演劇を20年続ける方法
第4回:家族と演劇

時間堂公演情報

※公演終了
次回公演「ゾーヤ・ペーリツのアパート」
■公演日程:2016年7月29日(金)~31日(日)
■会場:東京芸術劇場 シアターウエスト(池袋)
詳細・予約はコチラ→http://jikando.com/nextstage/534-zoykasapartment2016.html

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